昨今、気候問題に関して世の中の関心は高まり、様々な場面で目や耳にする機会が増えてきました。しかしながら、私たちの住んでいる地球が本当に危機にさらされているのか?と疑いを持っている人や気候問題に対して関心はあるけれど何をしたらいいのか「分からない」ままでいるという人も多いのではないでしょうか。私もこの問題について深く考え始めるようになったのは、大学の授業がきっかけです。最初は半ば疑いを持っており、気候問題から目を背けていました。しかし、地球の平均気温は年々上昇しており、冬でもセミが鳴くという嘘みたいな話が現実になる日はそう遠くないことに気づき、私の心境は変化しました。私はこの問題に対して多くの人に関心を寄せてもらい、何か行動を起こす一つのきっかけになればと思い、記事を書くことにしました。
まず、本文に入る前に以下の問いについて考えてみてください。
Q. 私たちの未来を守れるのはあと何年?
これまでの人生の中で上記のような問いを考えてみたことはありますか。私は、今まで考えたことがなかったです。立ち止まって一緒に考えてみませんか? そこで、今回は気候問題にいち早く関心を持ち、実際に行動に移された宮﨑紗矢香さんについて紹介します。彼女も、何か行動を起こしてみたいけれど、何をしたらいいのか悩んでいた一人です。様々な経験やその経験から生まれた新たな感情、葛藤から今、何を思うのか。次世代に受け継ぐべき考えをインタビューさせていただきました。
なぜ、気候問題に関心を寄せるようになったのか?(学生時代の取り組みと葛藤)
宮﨑さんが気候問題について考え、行動するようになった原点は、2019年2月にスウェーデンで行われたSDGs視察ツアーに参加したことです。元々北欧のスウェーデンに興味を持っており、SDGs国際ランキングで1位という点に惹かれ参加を決意したそうです。しかし、そのツアーの参加者に学生はおらず、社会人の方々に混ざりスウェーデンの進んだ環境保護の取り組みを学びました。スウェーデンではすでに足元からSDGsの取り組みがなされており、孫たちの世代まで考えられた社会が作られていたそうです。
そして、2019年3月、「SDGs」を軸とした就職活動をスタートさせていきました。日本の企業の中でSDGsを推進している会社を選ぼうとしていましたが、就職活動は彼女自身が思い描いていたものとは全く異なっていました。自身のこれまでの経験から気候問題に対する意見を伝えますが、面接官からは
「君の思うようにはいかないと思うよ」
「スウェーデンだからできるんでしょ?日本で同じようにするのは難しい」
という厳しい現実を突きつけられました。
環境対策は二の次、企業は利益を追求するものだからという日本の現状を痛感しました。
その後も、就職活動を進めていくものの彼女の言葉はなかなか受け入れてはもらえず、SDGsとは『誰一人取り残さない』ことではないのか?企業側は目の前の就活生を取り残しているのではないか?と疑問を抱くようになったそうです。そうして、就職活動を続けていく中で「大川印刷」という会社に出会います。この会社は彼女のことを今までのような就活生としてではなく、「一人の人間」として接しました。そして後に、この会社で彼女は第二の行動を起こすようになっていくのです。そんな中、彼女は「ある少女」の存在を知るようになります。
その少女こそがスウェーデンの環境活動家、「グレタ・トゥーンベリさん」です
彼女はグレタさんのスピーチに感銘を受け、Fridays For Futureへの参加を決意することになります。
活動家として注目される中での葛藤 (活動家から何者でもない自分へ)
彼女はグレタさんのことを知ってから就職活動どころではないと思い、実際に行動に移していくようになります。まず、母校の立教大学で行動に移そうと試みますが、またしても思ったような答えを見つけることはできませんでした。ある授業で、「学生が変われば、大学が変わる!」のではないかと考え、学校内での環境問題のプレゼンを行いました。しかし、学生側の反応は薄く、大学内では仲間が得られないと感じます。そして、Fridays For Future Tokyoのopen meetingに初めて参加することになります。そこで彼女は、同じ思いを抱く仲間に出会います。
2019年9月、彼女の代表的な活動として取り上げられるグローバル気候マーチが行われます。この活動はメディアなどで「デモ活動」と取り上げられることが多く、署名集めの際に、通りがかりの人から説教をされることもあったそうです。しかしながら、彼女自身はあまりひどい思いはしていないと語っています。その理由は、彼女自身の中でデモ活動をしているという認識ではなかったからです。就職活動や大学では自身の思いや声を聞いてもらえませんでしたが、グローバル気候マーチに参加することによって、自らを解放できる場所が見つかったと述べています。そのため、周りからの目はあまり気にならなかったそうです。
しかしながら、活動家として発信し続ける中でも彼女には多くの葛藤がありました。その1つが、16年間飼い続けてきた愛猫の死です。この出来事は彼女の気候問題に対する思いを改めて考えさせることになります。ちょうどFridays For Futureの活動が忙しくなるのと同時に愛猫の癌が進行し、2020年2月4日に亡くなってしまいます。最愛の猫の死は、彼女に大きな喪失感を与えました。これまでは活動家として気候問題を発信することに全力を注いでいましたが、この時ばかりは活動の手を止め、ボーッとしたかったと語っています。今までは、「ボーッと生きてんじゃねーよ!」と何もしない人々に呼びかけてきましたが、実際にはボーッとしたくなる時もあるという心境を彼女自身で感じたそうです。これがきっかけとなり、私たちの生活には他人が理解できないような悲しみや葛藤が存在していることを身をもって実感し、気候問題を知りながらも思うように活動できない人の視点に立つようになります。そして、グレタならぬ 「グレた!」と称し、相反する矛盾を抱えた自己と向き合うようになるのです。
また、運動に身を投じる人の異質性がしばしば看過されていないか?という疑問を抱くようになったといいます。Fridays For Futureで活動する若者も、参加の動機は様々であり、それが人生の通過点である以上、個人の状況によって運動にかけられる時間や労力は異なっていきます。そのため、十分に参加できない人々に罪悪感を感じさせてしまったり、燃え尽きてやめてしまうことを追及するのではなく、実感の及ばない主体にも寛容になれるか否かが、問われてくると思うといいます。だからこそ、活動する側こそが集団内の意見の差異に目を向ける必要があるのではないか、と結論付けました。
そして、メディアに出演することが増えたことで、いつの間にか「環境活動家の宮﨑紗矢香」となったことにも違和感を抱くようになります。なぜなら、彼女自身の中で環境活動家という自覚はなかったのです。彼女自身はあくまで、就職活動で感じた憤りにグレタさんの言葉が重なり、自分のすぐ傍の生活と、その裏側の世界で起きている現実を結びつけ、自己と他者に愚直に問いかけを続けたにすぎないと感じていたそうです。気候変動に関わらず、経験や知識のない若者も発言できる社会とはいかなるものなのか?また、グレタさんのような子が生きづらい世の中はおかしいのではないか?そうした問題意識から、これは人々のアイデンティティに関わるイシューであると受け止めているそうです。
人間活動家としての心構え
そうした葛藤を経て、気候問題をもたらしている「人間活動」は人間の存在自体を否定しかねないと気づいたそうです。確かに、私たちの生活から二酸化炭素が排出され、気候危機につながっています。しかし、職場で人間関係に悩んだり、学校で友達と衝突してしまったり、そういう些細な日常の詰め合わせが人間活動です。外野から人間活動を評価するのではなく、自らもその営みに参与し、変えていく。そんな「人間活動家」としての新しい一歩を踏み出したいと考えたそうです。彼女が新たな一歩を進む中で、手がかりとするのは「対話」です。現在、彼女は職場でも、気候問題を伝えていこうとしています。しかしながら、同じ価値観でない人に自分の思いを伝えることは根気のいる作業で、相手の立場になって話をすることが必要です。自分が居心地のいい立場や場所から発信するだけでは、相手の理解を得ることは不可能です。そのことに気づいた彼女は、以下のような信念のもと活動しています。
「発言する側は、相手の立場に飛び込んでいかなければいけない。そのためには、相手との境界線を越えて他者と関わる必要がある。自分の発言一つで関係が揺らいでしまうかもしれないが、それを恐れていてはいけない」
彼女は、いつ・どこで・誰もが伝えることができるのが気候問題であってほしいと語っています。どんな形であっても、一人一人が問題意識を持ち、小さな行動を起こすことが気候問題を改善するカギとなってきます。目の前の情報だけに飛びつくのではなく、その背景には何が隠れているのか正しい情報を収集していくことが重要なのです。彼女自身もあらゆる困難を乗り越えたからこそ生まれた信念をもとに、日々壁にぶつかりながら発信を続けています。
次世代を生きていく子ども達へメッセージ
最後に、人間活動家として新たな一歩を踏み出している宮﨑さんから子ども達へ向けたメッセージを紹介します。
「次世代を生きていく若者や子ども達は、これまでの世代が辿ってきた人生のレールがないに等しい、そんな時代を生きていかなくてはいけません。だからこそ、若くても、子どもでも疑問に思うことがあるのならばどんなことにもぶち当たっていってほしいです。そして、自分が思うことを貫いて、直感を大切にしてほしいです。何かモヤモヤすることや言葉にし難い喜びや感動を大切にしてほしいです」
大川印刷/人間活動家
1997年生まれ。立教大学社会学部卒。在学中に子ども食堂の活動をきっかけにSDGsに関心を持つものの、国内企業などのSDGsウォッシュの実態に疑問を抱く。その後、グレタ・トゥーンベリさんを知り、Fridays For Future Tokyoのオーガナイザーとして活動。19年9月26日NHK「クローズアップ現代+」に出演。20年4月より、株式会社大川印刷入社。今年2月18日にはNHK「おはよう日本」にて、「若者が起こす社内の“意識改革”」の事例として取り上げられる。共著に『グレタさんの訴えと水害列島日本』、『子ども白書2020』。
宮﨑紗矢香さんへのインタビュー記事を最後までお読みいただきありがとうございます。私は気候問題の実態を広めていくためには、何か特別なことをしなくてはならないのだと勝手に思い込んでいました。しかし、宮﨑さんにインタビューさせていただいて、身近なことからできることがたくさんあるということに気が付きました。また、誰もがすぐに取り組むことができるのが気候問題です。正しい情報を収集したり、それをまた誰かに共有したりすることで、気候問題を考える人の輪を拡げることができるのだと感じます。人類が考えるべき問題だからこそ、一緒に改善できる方法を見つけていきましょう。この記事をきっかけに誰かの心を動かすことができたら嬉しいです。
文責:2年 教育学科 村田幸子